情炎の焔~危険な戦国軍師~
しばらく黙ってお酌をしていると、沈黙が破られた。


「あんたが注いでくれる酒はやっぱりうまいですね」


左近様はお酒に強い人だ。


それなのに顔が赤くなるくらい飲むなんて、きっと何かあったのだろう。


「何かあったんですか?」


「不安なんです」


「不安、ですか?」


「殿の意地、あんたも見たでしょう?」


私は頷く。


「殿は義を盾にとんでもない相手に戦を仕掛けようとしている」


また頷いてみせた。


「吉継殿も言っておられたでしょう。殿は楽観しすぎだと。裏切りという不義をまるで考えていらっしゃらない」


「そうですね」


「義は必ず勝つとお考えだ。だから怖い」


「?」


「あの方は清廉すぎる。だからこの暗い乱世でいつか壊れちまうんじゃないか、不安で」


「…」


それはわかる気がした。


三成様は佐和山に来てもなお善政を行い、秀吉様の作った世を必死に守ろうとしている。


あの人は、まっすぐすぎるぐらいまっすぐだ。


「すいません。つい愚痴っぽくなってしまいました」


確かにいつも余裕の彼が、らしくない。


「私で良ければいつでも聞きます」


「友衣さん…」


熱のこもった目で見つめられて、胸の鼓動が早まるのを感じた。
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