情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド左近-


家康を奇襲することにした。


家臣達はその準備でバタバタしている。


「友衣さん」


俺は部屋の隅にいた彼女の姿を見つけて呼んだ。


「はい」


従順な彼女は無邪気な顔で寄ってくる。


その細い体を抱きしめた。


「わっ、左近様」


「なんです?」


「皆いるのに…」


彼女は俺の胸元で相変わらず恥ずかしげな声を出した。


「あんた、もうちょっと大胆になってもいいんじゃないですか?」


「そんなことっ」


くすっと笑って囁くと、びっくりして頬を真っ赤にするのが愛らしい。


今回の奇襲というのは、殿が文を書いてくれた将に水口城で家康軍をもてなさせ、家臣達に紛れて襲うつもりだが、この作戦ははっきり言って危険だった。


奇襲が為ったとしても、家康の回りに何千もの敵兵がいるから俺の命も危ない。


しかし、ここでやらなければ。


「友衣さん。もう少しこのままでいていいですか?」


「はい…」


自分で決めた奇襲だが、今だけは忘れたい。


愛おしい人の体温を着物越しに感じながら、俺は甘いひと時に溺れた。
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