小さなあくび。
慶太の携帯からの着信のはず。
聞こえるのは、
聞きたくて仕方なくて、
でも聞きたくない声。
「これ、慶太の電話、だよ?」
喧嘩腰のような口調なのに、
横になっているからか
お腹に力が入らず
泣いていたのが
ばれてしまいそうなほど
弱々しい声。
ー ささ、明日、予定あけといて。
「・・・なんで?」
ー いいから、年上命令。
「・・・はぁい。」
ー じゃ、ドタキャンすんなよ。お休み。
「おやすみ。」
昂兄に、おやすみ、なんて言われたのは
何年ぶりだろ。なんて
呑気なことを考える。
明日が、きっと、
昂兄が与えてくれた
あたしと昂兄の
最後の時。
最初で最後のデート、かな?
昨日までのあたしなら
飛んで喜んだような出来事なのに
結婚、という二文字が
頭から離れそうもなくて
また少し、涙が出た。