小さなあくび。
高速道路は、空いていて
車が通り過ぎる音ばかりが耳に響く。
このまま、
消えてしまえればいーなぁ。
なんて、本気で考える。
ーブブブ
携帯をみると、慶太からの電話。
気づかないふりをしてたけど、今日一日、昴兄は携帯を取り出していない。
彼女からの連絡がこわいの?
あたしのせいで、ケンカすればいい。
怒られればいい。
嫉妬してもらえる対象になれるだけで、今のあたしは喜んでしまえそうで。
自分の性格の悪さにゾッ、とする。
「もしもし?」
気を紛らわしたくて、電話に出る。
ー あ、繋がった!
昴兄にかけても出てくれないし。
帰ってくるの遅くない?
今どこ? ー
どっちが年上がわからないほど、
いつもお節介な慶。
「今、帰り道。
心配しすぎでしょ、」
ー 笹の馬鹿。
ー プ~プ~プ~
「あ、」
切られた。
「慶から?」
「うん、馬鹿って言い逃げされてた」
「慶も可愛いよなぁ、」
「兄馬鹿だなぁ、まったく。」
そうだな、と言って笑うその横顔は
あたしの知らない顔だった。
いろんな話を優しく聞く大人な顔。
アトラクションを楽しむ無邪気な顔。
ショーを見て、驚いたり感動したり、
ご飯を美味しそうに食べたり、
お土産やさんでふざけたり
花火が中止でしょげてみたり、
今日一日だけでも
いろんな顔の昴兄を見た。
それだけで、幸せだと思おう。
この人の幸せを祈れる私になろう。
「笹、」
いろんなことを考えているうちに、
車は停まっていた。