小さなあくび。
「もうすぐ、帰ってくるそうです。」
「そっか、ありがとうね。」
芙美子さんと2人、
家のリビングで昴兄と笹の帰りを待つ。
「芙美子さんはさ、
昴兄のどこがいいんですか?」
「え、急にどうしたの?」
「だって、彼女がいるのに…」
笹と2人、出かけるなんて…
「でも、昴にとって笹ちゃんは、何よりもかけがえのないものでしょ?
だったら、あたしはそれを奪う権利はないし、信じて待つしかないから。」
「俺なら…」
俺なら、力づくでも行くのを阻んでしまう。
俺だけを好きでいてほしい。
俺に、気づいて欲しい。
「笹ちゃんも、罪だね」
「?」
「あたしも幼なじみ2人に愛されてみたかったなぁ」
いたずらっぽく笑う芙美子さんには、大人の余裕のようなものが感じられて
でも決して嫌味ではなくて。
“昴兄は正しい人を選んだ”
と思った。
だけど、その正しい彼女を超えるほど、笹のことが好きなままなの?
そして、笹は
芙美子さんのことをどう思ってる?
人の不幸の上に自分の幸せを作っても何も感じないほどに、昴兄が好きなのか?
「芙美子さん、俺、何年かかってもいい。
笹に気付いてほしいんです、今までの気持ちを、」
自然にスルスルと言葉が滑り落ちていた。