夢見るゾンビ

頂上の少し手前にトイレがあったから、みんなそこで休憩した。

私は特に催してないので、一人で近くの岩に登って景色を見る。

頂上が近い岩の上からは、下に広がる町並みが輝いて見える。

耳元を、キンとした空気がかすめていく。

3月とはいえ、山の上はまだ冬の空気だ。

風の音以外は、何も聞こえない。

山の中で突然、一人になったような錯覚に陥って、私は

急に、お母さんが恋しくなってたまらなくなった。

お母さんに、会いたい。

お母さんの、声が聞きたい。

お母さんに、抱きしめて欲しい。

だけどもう、お母さんはいない。

「あ」

私はあることを思い出して、リュックのポッケから携帯電話を取り出した。


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