夢見るゾンビ

お母さんはわざと、私が電話に出られない時間帯に電話を入れたのだ。

そして、メッセージを残した。たくさん残した。

ずぼらな私がメッセージを消去しないことも、計算済み。

自分がいなくなったときに、私が寂しい思いをしないように。

自分がいなくなっても、私に愛を伝えられるように。

お母さんは、自分の命が残り少ないことを、知っていた。

中学校のときは、いじめられた私を守ることができたけど、これからはもう、私を守ってあげられない。

だからお母さんは、自分がいない世界でも私が笑顔で生きていける術を、準備していたのだ。

そう考えると、お母さんのちょっと外れ気味の言動が全て、パズルのピースみたいにしっくりと私の中で収まった。

3つの約束もそう。

お父さんの家に度々行かせたこともそう。

前向きスイッチだって、お母さんが教えてくれたものだった。

お母さんはさりげなく、自分がいなくなっても私が生きていくのに必要なものを、全て用意してくれていた。

私の中に、前向きに力強く歩んでいける、強くてしなやかな心を。

愛情を持って私を受け入れてくれる、新しい家族を。

困ったときには助けてくれる、本当の友達を。

そして、私の記憶の中に、確かに愛されていたという強い確信を。

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