初恋インマチュア
足元で揺れる、男子にしては長めの傷んだ茶髪頭を見つめながら、私は心の中でついさっきの自分を思いっきり恨んだ。
遡ること数十分前。
先生に頼まれた仕事を終えてすっかり帰るのが遅くなってしまった私は、さっさと帰りの支度を済ませて、下駄箱に向かって急いでいた。
校内はすごく静かで、私の足音だけが廊下に響く。
――早く帰ろう…
カバンの紐をぎゅっと強く握って、急いでいる足をさらに早めた時だった。
階段まですぐそばに来ていることに気付かないで、足を踏み外してしまったらしい。
すぐに視界がぐるぐると高速でまわりだして、気が付いた時には階段下の踊り場に横たわっていた。
全身のあちこちがズキズキと痛くてしばらく動けなかった。
そうして必死に痛みと格闘していた時に、高橋くんが声を掛けてきた。
「…何、してんの」
その高橋くんの声にハッとして、急に恥ずかしくなって立ち上がろうとしてみたけど、足首を捻ってしまったみたいでなかなか立ち上がれなかった。
そんな私を見かねた高橋くんは、大きな溜め息を吐き出してから私に背中を向けてしゃがみこんだ。
私がきょとんとしていると、首だけこっちに向けてぶっきらぼうに「乗れ」と、小さく呟いた。
「で、でも……」
「あ!勘違いすんなよ!これは別にお前のためじゃなくて、その……。と、とにかく!いつまでもそこにいられると迷惑だろ!早くしろ!」
乗るのを躊躇っていると、高橋くんは私を思いっきり睨み付けて顔を真っ赤にしながら大きな声でそう言った。
私は思わず肩をビクッとさせ、これ以上怒らせないように素直に従うことにした。
そうしておんぶをしてもらい保健室まで運んできてもらったのはいいものの、保険医が不在だったので今に至る。