初恋インマチュア
「…よし!じゃあもう遅いし帰るか」
「あ、はい…!」
「送ってくから、ちょっと待ってろ」
高橋くんはそう言うと、私の返事も聞かずにさっさと走って保健室から出ていってしまった。
一人ぽつりと保健室に残された私は、足を前に伸ばして手当てしてもらった足首をぼんやりと眺めながら大人しく高橋くんを待つことにした。
高橋くんとは同じクラスで、お昼休み頃にひょっこり登校してきて廊下で先生に思いっきり怒られている姿をよく見掛ける。
高橋くんのまわりはいつも賑やかで楽しそうだった。
地味な私は当然話したことなんて一度もなくて、一生関わらずに卒業していくんだと思っていた。
それなのに、どうして高橋くんは私なんかを助けてくれたんだろう。
もしも私が高橋くんの立場だったら、きっと見て見ぬ振りをして通りすぎていたと思う。
「……それにしても、これは大袈裟すぎじゃないかなー」
なんて呟きながら、高橋くんが丁寧に履かせてくれたハイソックスの上から足首を撫でる。
湿布の上から更に包帯をぐるぐると巻かれた足首は、くびれがなくなるほど太くなっていた。
「何してんの?」
「…!び、びっくりした…」
不意に聞こえた声に驚いて顔をあげると、高橋くんがグラウンド側の出入口に寄り掛かるように立ってこっちを見ていた。
「痛むの?」
「あ、いえ…!大丈夫です」
慌てて足から手を離してそう返事をすると、高橋くんは「なら良いけど」と言いながら保健室に入ってきた。
「これ。藤城のローファー」
「あ…、わざわざありがとうございます」
「おー」
手に持っている私のローファーを受け取ろうとすると、高橋くんは私の足元にしゃがんで、丁寧に履かせてくれた。
「ほらよ」
「あ、ありがとうございます…」
「送ってくからさっさとチャリんとこまで歩け。肩貸してやるから」
「えっ、いや、さすがに悪いです!自分で帰れます…!」
「…家まで歩けんの?」
「……え、…えっと、まぁ……がんばれば…多分…」
帰れるとは言ったものの、正直自信はなかった。
あやふやにそう答えると、高橋くんが悪戯っぽく笑った。
「多分ー?」
「あ、歩けますよ…!帰れます…!」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、高橋くんはさらに口角をあげる。
「じゃあちょっとチャリんとこまで歩いてみろよ」
「わ、分かりました」
高橋くんが私から数歩離れたのを確認してから恐る恐る立ち上がると、ズキッと微かな痛みが足首を襲った。
これくらいならなんとかなるかも…!
そう思って一歩を踏み出した瞬間、痛みがズキズキと激しくなってバランスを崩してしまう。