レス彼 〜私の彼氏はセックスレス〜
帰宅してから、準備してあった夕飯の支度を始める。
ご飯は一人で食べるものじゃない、と篤彦の母親はいつもそういって自分の夕飯はなくとも誰かが食事をするときは常にそばにいるらしい。そんな家庭環境で育った篤彦は私の帰りを待って夕飯を食べたいようだ。そういう温かい習慣を私はとてもすてきだと思った。

「おいしい?」

「うん!あゆみの作るからあげ、ホントにうまいよ」

「よかった」

「かーちゃんのよりうまい」

もっとゆっくり食べなよ、と微笑んでしまいそうになるくらい、気持ち良く口に運んでいる。本当に料理しがいのある人だ。この満足そうな顔が見たくて、仕事しながら家事もする辛い生活でもご飯を作り続けるわたしがいる。こういう幸せを感じられる生活が嬉しい。

食後の洗い物をしていると、早くおいで、とソファーから篤彦の呼ぶ声が聞こえた。ご飯のあとは二人でひっついてテレビを見るのが日課である。しかしテレビ番組は、たいていBGMがわりになってしまい、この時間はお互いの日課報告になることが多い。

「あゆみ、今日は仕事どうだった?」

「うん…まぁまぁ。デザイン案がも少しかかりそうで憂鬱〜」

「そうかぁ」

「篤彦は?」

「うん。新作のプロット書いてた。あんまり進まずかなー。悩んじゃってさ…」

私達の日課報告は止まることがなく、次から次へと、こんなことあったんだーなんて途切れることなくでてくる。お互い話し好きだし、聞き上手もあって、何か強制的に止めなければ、このまま夜通し話し込んでしまうだろう。

「ふぁぁ… 眠い…」

「こら。寝るなら風呂に入りなさい。そのまま寝ちゃダメ」

「はーいー。じゃぁ脱がせてっ」

「はいはい」


ソファーで横になってバンザイのポーズで甘える。こんな姿は、会社でバリバリ働いてるキャリアウーマンモードの私からは創造もつかない姿だろう。岡野が見たら、腹を抱えて笑う。間違いない。

それでも、こんなバカなんじゃないかと思うくらい、幼稚でわがままな甘え方でも、篤彦は笑顔で受けとめてくれる。素の自分をさらけ出しても安心できる。

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