レス彼 〜私の彼氏はセックスレス〜
「ヒモじゃないってば!なんてこというの」

「だってさー、ろくに稼ぎもないし、夢ばっかり追いかけてて、それを養ってるんでしょ?」

「人の彼氏捕まえて失礼ね!それに養ってるわけじゃないから。一応仕事してるわよ」

「そーなんだぁ?」

惚れた弱みに付け込まれてるね、と言わんばかりの顔つきにむかっ腹がたったので意地悪を言ってやった。

「…うちの事務所はアンタと私しかデザイナーいないんだから、早くデザインで仕事取れなきゃ、アンタも私の稼ぎで食わしてるも同然よwヒモくんw」

やられたという顔でデスクに戻る岡野の後姿には、うなだれたしっぽが見えるようだった。一応年上なのだから敬語を使うべきだが、岡野との間ではタメ口で十分である。むしろそれによってお互い言いたいことを対等に言えるよい関係を築いている。

…。だけど、、たしかに岡野の言うことも、一理ある。
私の部屋に転がり込んで、家事もしないし、精力的に働くわけでもない。世の中でいう女を手玉に取り生活するヒモと呼ばれる人種に該当するといえば、しそうな気もする。ともすればまるで私は、売れないミュージシャンを食わせる薄幸な女に見えるかもしれない。

彼氏は小説家としての誇りが高く、自分のテーマに沿った作品しか書かない。
出版社の好む作品をコンスタンスに書けるほかのライターに比べ、こなせる仕事の本数が極端に少ない。志が低いのも問題だが、高すぎるのも問題である。

たくさんの作品が書けることがよい小説家とは限らないが、こだわりが強すぎて作品が世に出ないのもよい小説家とは言えない。

多くの芸術家たちは理想とする仕事像と、日々の現実との折り合いをつけながら、作品作りに取り組んでいるのだ。

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