レス彼 〜私の彼氏はセックスレス〜
私の通勤鞄とジュニアのリードを交換して歩き出す。駅から家までは歩いて10分もかからないが、少し遠回りになるがジュニアの散歩コースを歩くと30分ほど歩く事になる。仕事帰りで疲れている日はしんどいが、それでも篤彦とジュニアと3人一緒に歩く夜の散歩の時間が、私は何よりも好きだ。

「あゆみ。あっちにさ、アレ出てた」

「ん? たこ焼き屋?」

「そう!1個買おうよ」

「夕飯ちゃんと食べれるなら、いいよ」

「マジで?!やった!ちょっと買ってくるわ」

まるで縁日にやってきた母と子の会話である。沢山の屋台が並んでいて、目をきらきらさせながらりんごあめやたいやきののれんをくぐり、にぎりしめたお小遣いでどれを食べようか悩んでいる子供の姿そのものである。

その姿を遠くから目を細めて見ているのが私だ。
お母さんキャラにすっかりなってしまっているな、と思いつつも、嬉しそうに念願のたこ焼きを抱えて走ってきた篤彦の姿を愛しいと思う私は、将来親ばか決定かもしれない。

「はい、あーん」

つまようじで指しながら一つ私の口へ運んでくれた。

「ん。うまーい」

「だろー。あそこのたこ焼き屋はたまにしかこないからねー。見かけたら買わないと!!」

「だねー。あー。お茶が飲みたくなるわ」

「だね。早く家に帰ってご飯にしようか」

「そうね」

上空で飛び交うしょうゆとかつおぶしの香ばしい匂いがする丸い物体をジュニアがしきりに見つめていた。
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