白銀色の花卉‐ギンイロノカキ‐
序章
 





ーーあの日も、こんなに暑かったかな。






私は閉じていた私を開いて、空を見上げた。

木漏れ日が差し込む木々の中、ひっそりと佇む小さな祠の前で。



「藍、そろそろ行くぞ!」



彼の呼ぶ声が聞こえた。いつも私の傍にいて、私を守ってきてくれた。

強くて、頼もしくて。

本当は凄く優しい、彼の声が……。



「うん、わかった」



私は、最後にもう一度だけ祠と向き合い一礼をすると、声のする方へと向かって走り出した。

彼が笑っているのが見える、私の口角も自然と上がるのが分かった。

『もう大丈夫』

そう思えた、この瞬間。

私は、やっと大きな壁を乗り越えられたような気がした。



「ごめんごめん、待たせちゃって」

「いや、大丈……」

「大丈夫じゃないから呼んだんでしょ、皆車の中で熱中症になりそうだもんね。早く行こう!」



彼の腕を引っ張り、私はまた走り出した。

仕方ないって顔しながら私を見る目が、心地よくて。

私は、更に彼の腕を引っ張って走ったんだーー。






……ねえ、見えていますか?


私は今日も元気だよ……。





 
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