フクロウの声
「まあいいや。取り次いでやるから名前を教えな。」
 
男は仕方がないというようにマオリを覗き込む。

「仲村織之助と申します。」
 
沖田に名づけられた男名を名乗った。

名乗ってから、
沖田はその名をきちんと土方に伝えているのか疑問がわいた。

しかし、女名であるマオリの名を名乗れば
不審に思われてしまうかもしれない。
あくまでマオリは男としてこれから暮らさねばならないのだ。

「仲村だな。ちょっと待ってろ。」
 
男は大きな明るい声でそう言うと境内を駆けていった。

どことなく悪い男ではないようにマオリには思えた。
 
男が戻って来るまで、
マオリはどうしようもなく立ち尽くしていた。

時折、通りかかる隊士の中に知った顔はないかと探してしまう。
知った顔といっても、
土方と沖田以外にマオリの知る人物はいないのだが。
 
ほどなくして男が戻ってきた。

「仲村、待たせたな。案内する。」
 
男は急いでくれたらしく、
つっかけた下駄の鼻緒の色が左右で違う。
案外抜けた男なのかもしれない。

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