フクロウの声
「徳川幕府をね、倒そうというやつらと新撰組は戦っているんだ。」

「将軍さまを・・・?」
 
マオリは歴史を知らない。

生まれた時からマオリは村娘で、
年貢を庄屋に納めるためだけに働いてきた。

将軍だの幕府だのという言葉すら、
今の今まで発することさえなかったほどだ。

一度、似たような説明を土方から受けたが、
その時も自分からは遠いことだと捉えていた。

「薩摩や長州が動いている。
 君が今まで斬ってきたのもほとんどがそういった藩の者たちだよ。」
 
マオリは初めて、
自分が手にかけてきた者たちの正体を知った。
目印にしていたのは闇に浮かぶいくつかの同じ意匠の提灯だと、
思い起こす。

「君が知りたがっている男は、
 その長州と薩摩に手を組ませて倒幕をいっきに軌道に乗せた大人物。
 土佐の坂本という男さ。」

あの夜の肉を斬った感触が只今のことのように蘇る。

「坂本殺しの下手人を、
 今倒幕派のやつらは血まなこになって探しているよ。
 新撰組も疑われ、原田さんが呼び出されたそうだ。」

「そんな・・・。」
 
マオリは有松を離れた理由がやっと実感できた。

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