フクロウの声
マオリが下手人であることが知れれば、
匿っていたおかみも主人もただではすまないだろう。
拷問にあい、殺されるかもしれない。
 
マオリは血の気が引いた。
これまで、指示された人物を斬るだけで、
それがどんな男なのかすら考えたこともなかった。
 
今さらながら、
自分が置かれている立場や奪った命に怯えた。

「もうひとつ・・・聞きたいことがあります。」
 
マオリは体の奥から湧き上がる震えを押さえつけながら聞いた。

「なぜ、藤堂さんを斬ったのですか?」
 
マオリは沖田の横顔を見つめた。
浅黒い肌が柔らかな日差しに浮かび上がる。

「私たちは武州の出だ。
 元百姓で貧乏道場主の近藤さん、薬売りの土方さん、
 武士の肩書きのある人もいるけど
 みんな本物の武士になることを夢見て京に来たんだよ。」

「永倉さんから聞きました。昔からの仲間だというのに・・・。」

沖田は目をふせた。

「土方さんは新撰組を大きくするために、
 厳しい隊規を作って違反した隊士たちを粛清してきた。
 近藤さんを、本物の大将にするために、
 鬼と呼ばれることを選んだんだ。」
 
驚いた。

近藤がマオリと同じ百姓であったことにも驚いたが、
あの冷徹な土方が鬼になることを
自ら選んだんだと言う沖田にも驚いた。
そんなふうに思っていることに驚いたのだ。

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