フクロウの声
マオリは水で冷やした手ぬぐいをぎゅっと絞り、
傷からくる熱にうなされる山崎の額の汗を拭いた。
 
上半身に巻いた包帯は
いくら替えてもすぐに血が滲んできてしまう。

屋敷を借りて負傷した隊士を世話してはいるが、
拠点が定まらない状況下でできる治療は限られていた。
 
熱にうなされて山崎が苦しそうな声をあげる。

「山崎さん・・・。」
 
マオリはどうすることもできずに山崎の名前を呼んだ。
その呼びかけにもうろうとした意識のまま山崎が目をあけた。

「ああ、おまえか。」
 
荒い息を吐き出しながら山崎がマオリを見とめた。

「大丈夫ですか。」

「大丈夫なわけあるかい。よう、見いや。」
 
山崎は苦しそうに、自棄気味な笑いを浮かべた。

「なんや、泣きそうな顔して。
 東軍の、新撰組の死神さまやろ。」
 
マオリはかつて有松で何度も山崎に心ない言葉をかけられた。
しかし、今やっとの思いで山崎が吐く言葉に
マオリは違った痛々しさを感じられずにはいられなかった。

「ほんでも、われが死神言われるのが、ようやっとわかったわ。」
 
山崎の視線がマオリの肩に向けられる。

「これが、沖田さんの言うてはった白いフクロウ・・・死神か。」
 
山崎の目にはマオリの肩にとまる
純白の羽毛に身を包んだ神々しい姿のフクロウが映っていた。

金色の目を細めたフクロウが、山崎の熱で潤んだ瞳に映る。
 
死を間近にした時に、フクロウの姿が見えることがある・・・。
 
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