フクロウの声
街道を避けて森へ入る。
森へ逃げ入るのはこれで何度目であろうか。
ふいにマオリを過ごしたこの半年が蘇ってくる。
最初に森へ逃げ込んだのはマオリであったな。
それから、宿場で夜襲に遭った時、
その次はあの坂本という男を斬った時だ。
おれは川を探した。
着物についた血が乾き布地がごわごわと固くなっている。
マオリは依然、魂が抜けたように呆けている。
重い体の奥底に沈みこんでしまったように存在が感じられない。
ちろちろと流れる小川を見つけると、まずは手を洗った。
真冬の水が痛いほど冷たい。
掻くようにして血を落とす。
右手は刀を握ったかたちのまま固まって、
掌を完全に開ききることができない。
おれはその小さなマオリの手を改めて見回した。
坂本に死神の存在を問われてから、
マオリはおれの存在に苦しんでいた。
刀を握るたびに自分が自分でない感覚に囚われるのは、
夜ごと土方の指令で人を斬るたびにすでに明らかになっていっていた。
沖田と近藤の妾宅で過ごす頃には、
眠っている時でさえ悪夢を見るようになっていた。
それでも、マオリは何かを見つけ始めていたし、
自ら戦うことを決めてからはおれの存在に苦しむこともなくなっていた。
川面に顔を映した。
まるで般若のようだった。
顔もまた返り血を浴びて真っ赤になっている。
黒髪もごわつき、
固まっている。血は洗い落とすことができたが、
マオリの目は赤いままだった。
まだふさがりきらない傷からじわりと血が滲むように、
涙が溢れた。
森へ逃げ入るのはこれで何度目であろうか。
ふいにマオリを過ごしたこの半年が蘇ってくる。
最初に森へ逃げ込んだのはマオリであったな。
それから、宿場で夜襲に遭った時、
その次はあの坂本という男を斬った時だ。
おれは川を探した。
着物についた血が乾き布地がごわごわと固くなっている。
マオリは依然、魂が抜けたように呆けている。
重い体の奥底に沈みこんでしまったように存在が感じられない。
ちろちろと流れる小川を見つけると、まずは手を洗った。
真冬の水が痛いほど冷たい。
掻くようにして血を落とす。
右手は刀を握ったかたちのまま固まって、
掌を完全に開ききることができない。
おれはその小さなマオリの手を改めて見回した。
坂本に死神の存在を問われてから、
マオリはおれの存在に苦しんでいた。
刀を握るたびに自分が自分でない感覚に囚われるのは、
夜ごと土方の指令で人を斬るたびにすでに明らかになっていっていた。
沖田と近藤の妾宅で過ごす頃には、
眠っている時でさえ悪夢を見るようになっていた。
それでも、マオリは何かを見つけ始めていたし、
自ら戦うことを決めてからはおれの存在に苦しむこともなくなっていた。
川面に顔を映した。
まるで般若のようだった。
顔もまた返り血を浴びて真っ赤になっている。
黒髪もごわつき、
固まっている。血は洗い落とすことができたが、
マオリの目は赤いままだった。
まだふさがりきらない傷からじわりと血が滲むように、
涙が溢れた。