フクロウの声
最近の戦いで野宿は慣れていたが、
それでも一人きり娘が木の根元にうずくまって眠るのは
寂しいものがあった。
 
すっかり傷はふさがったが、
マオリの目元は乾くことがない。
おれの刀を抱きしめるようにして、すうすうと眠っている。
 
おれはマオリの眠る木の枝に止まり、月を見上げた。
 
澄み切った冷気が月までの道を凍らせているかのように、
満月が美しく光っている。
おれはその光に目を細めた。
 
ホウ、ホウ、ホウ。
 
おれは啼いた。

町のほうから銃声が聞こえ、
青白い魂がぷかりと浮かんで空へ上っていく。
 
ホウ、ホウ、ホウ。
 
おれも思案のしようがなかった。
これからマオリがどうするのか見当もつかない。
おれにしてやれることもない。
 
ホウ、ホウ、ホウ。
 
神と呼ばれるようになった今に、
こんな人間くさい思いをするとは思いもしなかった。
 
おれは啼き続けた。
 
マオリに誰も近づかないように。
ここにマオリがいることを誰かに知らせるように。



その夜、おれは夢を見た。
何百年ぶりかの記憶を思い起こしたと言っても良いだろう。
 
あの頃だって、今とそう変わらない。
人間どもは争っていた。
おれの住んでいた国もやれ、どの国と戦だ、今度はどこだ、
攻めろ、守れの一声で年中おれは戦へ駆り出された。
 
戦場で敵の大将の首を次々似ればあげれば、
皆はおれを戦の神だとあがめた。
仲間のあげる勝どきの中心でおれは拳を高々とあげた。
 
馬に乗って戦場を駆けるおれの姿をおれは夢の中で見ている。
 
そうだ、おれは帰ることができなかったんだ・・・。
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