フクロウの声
マオリは抜いた刀を両手で持ち、
ゆっくりと自分の喉下に当てた。

おい、そんな使い方させるために渡したんじゃねえぞ。

おれは命を絶とうとするマオリを不愉快に思った。
おれの美しい刀で、おれの助けてやった命を捨てるというのか。

何よりも、やっと動けるようになったおれを
邪魔するマオリが許せない。

怒りがこみあがる。

「おとうも、おばばも、源太も、栄治もいない。家もない。村もない。」

だからどうしたという。
 
低いまま声を荒くする。
おれはマオリの細い手首を強く爪で掴んだ。

「なぜ一緒に死なせてくれない。おらは生きておりたくない・・・。」
 
マオリは搾り出すように叫んだ。
腫れた瞳からまた大粒の涙がこぼれた。

ふざけるな、おれの助けた命はおれのものだ。
死ねるものか。
 
おれも怒気を強めた。

マオリがいくらその刀で喉元をかき斬ろうと、
翌朝には傷は治ってしまうだろう。
しかし、死にたいと泣くマオリの姿はおれを苛立たせた。

「うぅ・・・。」
 
おれは掴んだマオリの手首に力を込める。
鋭い爪で手首を掴まれたマオリは呻いて刀を落とした。
 
マオリは手首を押さえてしゃがみこんだ。
おれもそれなりに力を入れたので
マオリの手首は肉が裂けて血が出ている。

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