フクロウの声
「し、勝負ありー!」
 
呼び込みの男は片手を上げた。

「おおおおっ!」

我に返った野次馬たちが驚きと歓喜の声をあげた。

負けるわけがないと踏んで大金を賭けたものたちは
落胆の表情を隠せなかった。

しかし、大半の人間どもは
この信じられない光景に興奮した様子であった。

なかなか満足である。
マオリは何が起こったのかわからなかった。

刀を抜いた瞬間に空腹で今にも倒れそうな体に力がみなぎった。
ざわざわと足元から何かが生えてくるような衝動にかられた。

それと目がよく見えた。
大男の動きは緩慢で、
いたずらをしかけてくる弟のように見てとれた。

これが、フクロウの力なのか。
この体を支配する力は、間違いなくマオリのものではない。
とすれば、それはフクロウのものだろう。
 
この時になってやっと、
はっきりとマオリは自分の中に宿った死神の存在を認識した。
 
呼び込みの男が金一両と共に賭けで稼いだ金をマオリに渡した。

「あんた、一体なんなんだい。」
 
マオリは何も答えずに男を見た。
答えようがない。
困ったように首を傾げる。

「まあ、いらぬ敵を作らぬように気をつけることだ。」
 
忠告のように男が言った。
麻の袋に入った金がずっしりと重かった。

 
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