フクロウの声
マオリは畑に出て、野良仕事をしていた。
今年で数え十七になる。

毎日毎日、畑に出ているので、
マオリの肌は浅黒く焼けている。

父と、年老いた祖母、
そして弟が二人いる平凡な村の娘だった。

額に垂れる汗を腕で拭うと、それに沿って泥がつく。
マオリは擦り切れた手ぬぐいで顔を拭いなおす。

夏の太陽がぎらんぎらんと照らしている。
遠くの景色はかげろうのように揺れて滲むほど、今日は蒸し暑い。

背中には二つになったばかりの弟を背負っている。

ぐずれば軽く背を揺らしてあやす。
日に日に重くなる背中の歳の離れた弟を、
マオリは自分の子供のように片時も離れぬほど大切にしていた。

母はこの弟を生んだ後に死んだ。
なので弟にとってマオリは母の代わりでもある。
マオリは母の命が弟に宿って、今も一緒にいるのだと信じていた。

けほけほと、背中の弟がむせこんだ。
マオリはちらりと背負った弟を見た。
ぐずぐずと息をし、苦しそうにしている。

「おとう、栄治がへんだ。」

マオリは野良仕事をする父に向かって弟の異変を呼びかけた。

「暑いんだべ。木陰で休んでろ。」

同じく野良仕事で黒く焼けた顔の父の言葉にマオリは鍬を置き、
畑から上がった。

青々と枝を伸ばす木の下の陰には入ればいくらか涼しい。
マオリは弟の背負い紐を解き、
ほのかに湿った草の生える地面へおろした。

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