フクロウの声
なんと美しい。

心根の醜い者でもこの瞬間は誰もが美しい。
青白い紙風船のような魂が月へとのぼっていく。
 
そのおれの外側で、マオリは崩れ落ちそうになっていた。
 
全身に血を浴びて、むせかえるような生臭いにおいと、
自らが絶った命に呆然としていた。
 
マオリは初めて人を殺したのだ。

マオリ、ここを出るぞ。
 
おれは沸き立つ嬉しさをおさえて、マオリを促した。

マオリは買った着物と刀という
少なすぎる荷物を持って、宿屋を出た。

階段下にいた宿屋の亭主が、
血まみれのマオリを見て腰を抜かした。

「あ・・わわわ・・・。命だけは・・・命だけはぁ・・・。」
 
小便を漏らしながら命乞いをする主人を一瞥しておれは外に出た。

宿屋を出ると月明かりに照らされた宿場が昼間のように明るかった。
死神の血を隅々まで宿したマオリには
月明かりさえも太陽のように眩しい。
 
もう、普通の娘ではなくなった。完全に。
 
マオリは走って宿屋から離れた。
はあはあと、マオリの息遣いが闇夜に響く。
 
おとう、おとう、おとう・・・。
 
マオリは走りながら心の中で父を呼んだ。
その声があまりに悲しくて、
おれは柄にもなく少しやりすぎたと反省した。

弟の死、父の死、祖母の死、夜襲した男たちの死・・・。
マオリはこの数日間でごく普通の娘の一生分の死を見たに違いない。
 
マオリの運命を思うと、いくらばかりか同情した。
 
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