フクロウの声
マオリは森へ逃げ込むと、見つけた池で体を洗った。

すぐに水をたたえる場所を察知できるのも
おれの力の一つであるとも知らずに。

すでにその体の隅々までがおれなのだ。 

こびりついた血が乾いてなかなかとれない。
マオリは爪をたてて削るようにざぶざぶと血を洗った。
 
池の水面に波紋が広がる。

マオリが手を止めると、波紋が静かにおさまった。
鏡のように水面が明るく輝いてマオリの顔を映し出した。
 
マオリは水面に映った恐ろしい変化を遂げた自分を見つめた。
再び水面に波紋が広がる。

ぽたぽたとマオリが流した涙が新たな波紋を作っては消える。
マオリは草の上に突っ伏して、声をあげて泣き出した。

その身に降りかかった運命を投げ出すように、
上半身を投げ出して泣いた。
 
その声は森に狼の咆哮のように響いた。
両手で草を掴み、地面をかいた。

手のひらには、刀が肉を斬り、骨を断っていく感触が
ありありと残っていて消えない。
いくら地面にこすりつけても、その感触は消えない。
 
やっぱりあの時死ねばよかったと、
マオリは後悔せざるをえなかった。

この手で人を殺めてしまうくらいなら、
その前に自分が息絶えればよかったと。

「もう出て行って・・・。」
 
マオリは振り絞るような声でおれに言った。

「死んだっていいから、おらから出て行って・・・。」
 
マオリは泣きじゃくりながら懇願した。

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