フクロウの声
おれにとってそれは聞けない願いだった。
おれは黙って水面に映った月が揺らめくのを見ている。
 
神社で意識を取り戻した時よりも、
確かな意思を持ってマオリは白い鞘から刀を抜いた。
 
鍛え上げられ、
研ぎ澄まされた刃物の美しい光がすうっと光る。

マオリは刀を自分に向くように構えて、
切っ先を白く細い首筋にあてた。

涙がまた一筋流れて、その首筋に伝っていく。
つばを飲み込むたびに小さく喉が動いた。
 
マオリは目を閉じていた目を薄く開いた。

夜空が明るい。
雲のかたちまではっきりと見える。

それが人並みでないと感じられることも虚しくて、
悲しみと絶望は増すばかりだった。
 
今の今まで、鍬しか握ったことがなかったのに、
フクロウの授けた刀はしっくりとマオリの手の中におさまっている。
 
力を込めて首筋に切っ先を当てる。
火を当てたような痛みは走り、
温かい血が流れ出る感触がマオリの喉元を伝っていく。
 
マオリは固く目を閉じ、刀を握りなおした。
大きく後ろに刀を引く。

これでやっと弟たちの元へ逝くことができる。
死神となって生きながらえる必要などない。

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