フクロウの声
「やめろ。」
 
渾身の力を込めて刀を引こうとするマオリの腕を掴むものがいた。
 
おれが傍観していたのは、
この男が先ほどからマオリの様子を伺い見ていたからだった。
 
男は、深い藍色の着物を着て、
蛇のようなしたたかな瞳をしていた。
 
マオリの首筋から血が流れるのを見て、
ついに物陰から飛び出してきた。

「絶ってしまうには惜しい腕だ。」
 
力を込めたマオリの腕を、男はやすやすと下ろさせた。

「放せ!」
 
マオリは抵抗して叫び、
男から逃れようとするが、男は掴んだマオリの腕を強く押さえていた。
 
もがくマオリの顔が月明かりに浮かび上がる。

十七にしては幼くやせぎすだった。
白すぎる肌に泣きはらした赤い目がうさぎのようである。

男が軽くマオリの腕をひねると、
力なくマオリの掌は開きカランと刀が地に落ちた。
 
男は口を開いた。

「人を斬ったのは初めてか。」
 
マオリは固く唇を噛み締めたまま、
男から涙の溜まった目を逸らした。

男はマオリに構わず、
刀を握るかたちに固まったままのマオリの手をとった。

マオリの手はがむしゃらに土を掻いたために血がにじみ、
まだ小刻みに震えていた。
 
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