フクロウの声
おれはマオリが命をとられるようなことがあれば
すぐ体に乗り移り、内側から男と戦うつもりでいた。

しかし、こうして傍観を決め込んだのは、
男にマオリを殺す意思がないことがわかったからであった。

男の目的は・・・
おれは今しばらく傍観を続けた。

「殺して・・・。」
 
マオリは輝きを失ったがらんとした瞳を男に向けた。

地面に刺した刀を抜き、
マオリを起こそうと手を差し伸べた。

「おまえの命、俺が預かろう。」
 
男は刀をおさめ、ふと優しげな視線をマオリに向けた。

「約束する。俺がおまえを殺してやろう。
 ただそれまで俺に命を預けないか。」
 
男の申し出に、マオリもおれと同じように驚いた。

「京へ来て仕事をしないか。」
 
マオリは男の姿をまじまじと眺めた。

ねずみ色の袴に藍色の着物。
束ねられた豊かな総髪がゆったりと垂れている。
 
いつまでも呆けたように男を見つめるマオリにしびれを切らせ、
男はマオリの手をとって小さい子供にするように立たせた。

「俺の名は土方歳三という。京で新撰組の副長をしている。」
 
男は心地よく響く低い声で名を告げた。

「おまえの名はなんという。」
 
男から鬼の気配が消えていた。

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