フクロウの声
マオリは用意された水桶で足を洗い、屋敷にあがった。

板張りの床はつるつるとしていて、
マオリが暮らしたすぐにささくれが足に刺さってしまうような
ずるずるの床をした小屋とは大違いであった。

土方は先に部屋に通されていった。

マオリが緊張した面持ちで足を丁寧に洗っているあいだもずっと、
おかみは笑みを絶やさずにマオリのそばにいた。

マオリは久々に力が抜けていくのを感じた。


マオリとおかみが部屋に入ると、
土方がおかみと同じく四十代の男と話していた。
どうやらここの主人らしい。

「土方はん、連れて来ましたえ。」
 
おかみはマオリを先に部屋に入れると自分は下座に座った。
マオリもおどおどしながら土方とおかみの間に座る。

「この娘はんどすか。」
 
主人が土方に確かめるように言うと、
目を細めてマオリを眺めた。

マオリは恥ずかしそうに、下を向いて視線を逸らした。

「ああ、この娘をここで預かって欲しい。」
 
土方の言葉に驚いてマオリは顔をあげた。

「新撰組の土方はんの頼みを断れるわけあらへん。」
 
主人はおかみと同じようににこにこと笑いながら、
土方の申し入れを受け入れた。

土方は満足そうにうなずき、マオリを見た。
不安そうに土方を見つめるマオリと目があった。

「マオリ、これからおまえに与える仕事の内容を伝える。」

マオリはごくりとつばを飲み込んだ。

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