フクロウの声
「いんや、誰にも会わんように裏から来た。」

マオリも草履を脱いで土間から上がり、祖母を手伝った。

「水汲んで来い、マオリ。」

マオリはこくりとうなずき、裸足で再び土間に飛び降りた。
弟の汚物で汚れた腕が気になったが、
祖母に言われるままにカメから水を汲んだ。

「おばば、水!」

小さな桶に汲んだ水を祖母に差し出す。

手ぬぐいを濡らし、汚れた弟の体を拭いた。
しかし、体中を拭き終わる前に弟は咳き込み再び嘔吐した。

「栄治・・・。」

マオリは膨れ上がる恐怖に耐え切れず、
涙をこぼして震える声で弟の名前を呼んだ。

「泣くでねえ!」

祖母が懸命に弟の体を拭きながらマオリを一喝する。

「誰にも言うでねえぞ、誰にも言うでねえぞ。」

呪文を唱えるように祖母は低い声で何度もマオリに言い聞かせた。
ビリビリと音がして弟の尻から汁が垂れた。

マオリは祖母の言葉に何度も首を縦に振りながら、
懸命に拭いては溢れる弟の吐瀉物と汚物を
黒ずんだ小さな手ですくいとった。

日が暮れて、父が帰ってきた頃には弟の症状はさらに悪化し、
ひっきりなしに嘔吐と下痢を繰り返すものだから、
仕方なく土間に寝かせられていた。

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