フクロウの声
「おう、どこに行ってたんだ、総司。」
 
戻った沖田に土方が気づいて声をかけた。

「厠ですよ。子供じゃないんだからいちいち聞かないでください。」
 
沖田は自分の膳の前に腰をおろす。
膳にはほとんど手がつけられていない。

「総司こそすぐ土方さんにつっかかるよなぁ。」
 
沖田の隣に酒が入って頬を染めた男がやってきて、
細い肩に手をまわした。

「新八さん、からまないでくださいよ。」
 
沖田に新八と呼ばれた男もまた、
永倉新八という新撰組の幹部の一人であった。

気心の知れた昔からの幹部だけが今夜は集まっている。

「そうだ、あの娘に会いましたよ。」
 
沖田は永倉の腕をほどきながら少し弾んだ声で言った。

「おう?なんだなんだ。どんな娘だ?べっぴんか?」
 
横から上半身の着物を脱いだ男が割って入る。
この男の名を原田左之助という。
槍の使い手である。

「総司、あまりしゃべるな。」
 
土方が不機嫌そうにマオリのことを聞きたがる隊士たちをいさめた。

「秘密主義ですか、土方さん。それともひとりじめですか?」
 
沖田は土方をにらんだ。

「まあまあ、二人ともやめないか。
 時が来たら皆にも紹介できる時が来るだろうが、
 今はまだ大仕事の前だ。皆も今の話は少しの間忘れてくれ。」
 
近藤が口を開くと場がおさまった。
大仕事、という言葉がそれぞれの口を閉じさせた。
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