フクロウの声
荷物の整理が始められている様子に気づくと、
おかみは痛々しそうに目をふせた。

「おかみさん、お世話になりました。」
 
マオリは手をついて頭をさげた。

命を絶とうとしたところを土方に連れられて京に来た。

天涯孤独の身になったマオリに、
寝食のできる場所を与えてくれ、読み書きを教え、言葉を教え、
作法を教えてくれた。

何より、母のように温かく接してくれたことが
マオリにとっては唯一のよすがであった。

「ずっと・・・ここにはおられへんの。」
 
おかみはマオリの手をとった。
温かいというよりも熱い体温がマオリの手を包む。

「有松に危険が及ぶことを案じてのことだそうです。」
 
マオリは鼻の奥がツンとするのをこらえて答えた。

「今晩、行かへんかったらええんや。」
 
おかみがぎゅっとマオリの手を握る。
丸く折れた背中をマオリは見つめる。

「そんなことしたら、私はどのみち有松にはいられません。」
 
マオリはわざと冗談を言うように声をあげてみた。
 
途端に、おかみはわっと泣き出した。
熱い涙がマオリの手に落ちる。

「あんまりや・・・。あんたみたいな娘に人殺しさせるなんて、
 土方はんは鬼や・・・。」
 
マオリはおかみの背中に手をあてた。

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