赤の記憶
「Happy Birthday“SHIN”……っと。これでよし!」

「翠ー、ケーキ出来た?」

「うん、出来たよ!あとはこのキャンドルを差すだけ」


私の手にあるのは、2の形のキャンドルが2つ。

6月3日。
今日は3つ上の私の兄、真の22回目の誕生日。
でも、今日の主役は“ここ”にはいない。

真君は10年前の4月1日、中学校入学を目前に姿を消した。
警察に捜索を依頼したけど見つからないまま時だけが過ぎていってしまった。
死亡届けはもちろん出していない。
まだどこかで真君は生きている……そう思って、私達家族は真君の誕生日パーティーを毎年行っている。


「今年も可愛く出来たね。真が見たら、どんな反応するかしら」

「真君は照れ屋だからなあ……。きっと、“誕生日パーティーなんて年じゃねーし”ってふてぶてしく言いながらちゃっかりパーティーに参加するんじゃないかな」

「ふふっ、そうかもね。……真、元気にしてるかしら」

「元気にしてるよ、きっと」


それ以来、私達の会話はなくなってしまった。

本当は分かってる。
こんなに時が経ったのに、生きてるわけなんてないこと。
いつまでもこうして目を逸らしてはいられないこと。


ねえ、真君。
せめて最期に会いに来て。

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