赤の記憶
「……あ!」

「どうしたの?」

「アレ、出すの忘れてた!」

「もー、お母さんしっかり!私はもうやること全部終わってるから、取りに行ってくるね」

「ありがとう、翠。助かるわ」


真君は野球が大好きだった。
だから毎年の誕生日には、真君が使っていたバットとグローブを真君の席に置いている。

それを取りに納戸へ向かうも、なかなかそれは見つからない。

「あれー?確かこの辺に……」

見つけやすいバットから探せばきっとすぐ見つかるだろうと積み重ねられた箱に手を伸ばすと、一際古い布に包まれた細長いものが視界に映り込む。
随分汚れて黒ずんではいるものの、元はすごくきれいな水色だったんじゃないかと思う。


「なんだろ、コレ」


興味を引かれて包みを開ければ、1本の筆が出てきた。
それもかなり年期の入った風合い。
おじいちゃんおばあちゃん……いや、もっと前の世代から使われていたような。


「誰かの形見かな?」


誰に答えを求めるわけでもなく呟いてそれを再び包み直そうとした刹那、何故かその筆から目が離せなくなった。


─頼む─


「え……なに?」


今ここにいるのは私一人だ。
それに耳に届くような声じゃない。
もっと、頭に響くような……。

プツン、と。
私の意識はまるでそうなるのが自然な流れのように失われていった。


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