赤の記憶
───蒸し暑い夏の夜。
ある建物の付近では浅葱の羽織を着た男たちが慌ただしく動いていた。

ただでさえ肌にまとわりつく湿気を帯びた空気に不快感を感じさせられているのにも拘わらず、辺りには血生臭さが漂っている。
建物の中からは怪我をしている者や息絶えている者が引きずり出され、普通に動き回っている者ですら血にまみれている。

その者たちの中で中心核となり指示を振っている漆黒の長髪を一本にまとめた男が、黒装束の男に向き直る。


「あとは任せたぞ、山崎」

「承知しました」


そう返事をした後すみやかに闇へと消えていく黒装束の男の後ろ姿を見つめていると、また別の方向から声をかけられる。


「土方さん、俺らはどうする」

「一足先に撤収だ。深手を負った奴らも気にかかるしな」

「……だな。新八の奴も深手を負ったくせに【こんなの怪我のうちにも入らねえ】って強情張って怪我した隊士運ぶの手伝ってやがるし」

「んだと!?藤堂達と一緒に帰ってろって言っただろうが……!」

「土方さん」

「なんだ、斎藤」

「おなごが……」

「あ?」

「池田屋の中でおなごが倒れています」

「池田屋の中で、だと?……屯所へ運べ」

「承知」

「ああ、それと……あいつにこの近辺を探れと伝えてくれ」

「分かりました」


こうして浅葱は様々な場所へと散って行く。
これから彼らの生活が大きく変わっていくなんて、この時誰が予測できただろうか。
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