恋猫
恋猫
時は徳川天下の元禄時代。
江戸幕府第五代将軍徳川綱吉は、殺生を禁ずる生類憐れみの令を制定した。
この法令は、当初は殺生を慎む精神論的法令であったが、違反者が減らないため、ついには御犬毛付帳制度をつけて犬を登録制度にし、また犬目付職を設けて、犬への虐待が取り締まられた。元禄9年(1696年)には、なんと犬虐待への密告者に賞金が支払われる事となった。
この時代、犬は「お犬さま」と言って、虐待は愚か、大事に大事に扱われ、祀り崇められていた。
猫は犬ほどではなかったが、それでも殺生は禁じられ、野良猫が大きな顔をしてかっ歩していた。そして、ちまたでは、そこかしこに無数の野良猫たちがたむろしていた。
こんな背景の時、この物語は始まった。
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