恋猫

 ドサッ。


 鈴は崩れるように倒れて行った。


 ぺろぺろっぺろぺろり。


 美化が鈴の血を赤い舌でぺろぺろと舐めた。
 鈴は息を引き取る寸前、ぱちっと目を開けた。


 (な・ぜ・?なぜ・なの)


 鈴が瞳で意思を述べた。


 (何故?淳ノ介はあたいの男だからね。乳繰り合うのは、てめえじゃなく、あたい。このあたいなのよ)


 美化がふてぶてしく心で語った。


 美化の意思が分かったのか、そうでないのか、分からないまま、静かに静かに鈴が息絶えた。
 鈴の瞳には、大粒の涙がひと粒、浮んでいた。


 美化は鈴が息を引き取るのを横目で見ながら、なおも大きな舌を出し、ぺろぺろと、鈴の血を啜っていた。


 血を舐め終わると、美化はゆっくりと『越後屋』に向って歩き始めた。






 
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