恋猫
気高く楚々と振舞っている武家の娘 篠。
男子と並んで歩く事もしない、格式高き旗本の娘の口から、似ても似つかぬ言葉が、火縄銃のように不意に飛び出して来たからだ。
「私、出会い茶屋とか言う新しきものに、非常に興味がありますの。淳ノ介さま、もしお宜しければ、連れて行ってくださいませんか」
「ええ、私がですが・・・」
淳ノ介は、余りの驚きに口をただぽか~んと開け、人差し指で自分の間抜けた顔を指指していた。
淳ノ介は、出会い茶屋がどういう場所かは知っていた。剣術の道場仲間が嬉しそうに話しているのを、小耳に挟んだ事があった。
何でも、うら若き男女が密会を楽しむ場所らしい。凄い場所があったもんだ。こんな場所が商いになるとは、世も末だ。もちろん、淳ノ介は、まだ一度も、そんな場所に行った事が無い。