恋猫
美化は、何気なく瓦版に目を通した。
「何!お江戸一のとびきり美人」
「こ、これだ!」
美化が瓦版の話題に飛びついた。
「葵小町とやらのお顔を、拝まなきゃ損損。行かなきゃ損損」
思い立ったら、大安吉日。
美化は全速力で『越後屋』に向った。
『越後屋』は、江戸で三本の指に入る豪商で、立派な店を構えていた。
客と奉公人で、店内は大いに賑わっている。
「ここから入れば、きっと追い返されるに違いない。急がば回れ。裏に回って母屋にでも行くか」
美化が、暖簾の隙間から中を覗きながら呟いた。
店の裏に回り塀に上がると、美化はヒョイと庭に飛び下りた。