恋猫
庭から、母屋が見える。
主人の部屋の隣に、少し小さめの部屋がある。
部屋の障子が開いており、娘がひとり座っている。
「あっ、葵小町だ。葵小町に間違いない」
美化が無言で囁いた。
顔を良く見る為に、美化が鈴の近くに用心深く近付いた。
「美人だ。噂通りのとびきりの美人だ」
美化は、ただただ鈴に見とれていた。
暫くして、美化が我に返った。
「よ~し。こうなりゃもっと接近して、お近付けになるか」
美化はそう決心すると、いきなり鈴に向って走り出した。
まず、鈴の右へ突進。と、思うと、鈴の回りをくるくる回る。さらには、部屋の隅へ。そして、獲物を取る仕草を大袈裟に。
美化が精一杯に演技をした。