恋猫

 鈴は美化が、大いに気に入ったようだ。
 美化は鈴から気に入られた事を確信すると、するりと鈴の腕の中から逃げ出した。


 「あら、どこへいくの。もっと、ここで遊んでいていいのよ」


 鈴が名残惜しそうに呟いた。


 (今日はほんの顔繋ぎ。また、必ず、来るからね。その時は、イケメンの淳ノ介さまを連れて来るから、お楽しみに。じゃ~、またね)


 美化が鈴に心の中で囁いた。そして、庭に下りると、美化は塀の上にひょいとよじ登った。
 塀の上で一度振り返り、鈴にさよならすると、鈴は塀を降りて通りに出た。


 通りに出ると、美化は瓦版を見た場所まで戻った。その場所の桶の裏に、先ほど目を通した瓦版が隠してある。


 「あっ、あった。あった」


 美化は瓦版を口に咥えると、楓家の屋敷に戻って行った。





 
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