想い綴り
「俺、高崎が好きなんだけど」
藤本が、今よりずっとあたしの近くにいたのは
もう、4年も昔の夏のこと。
高校2年の一学期最後の終業式。
全校生徒が並ぶ横でまるで独り言のように呟いた。
それまでずっと仲のいいクラスメイト
でも
少しだけ…あたしの中で特別だった男の子
それが
藤本 竜希だった。
校長先生のスピーチの隙間をぬって耳に届いた言葉。
斜め上から響くその声
ゆっくりと見上げた先に見えたのは
ちょっと横目にあたしを見つめる照れくさそうな優しい瞳。
「……カンナって…よんでいい…?」
自信なさげにあたしを呼ぶ声
ゆっくりとのばされた手のひら
おそるおそる重ねた指先を、強く強く包み込む大きな手…
それは
友達の距離が
恋人の距離に変わった一瞬だった。