想い綴り
“月の満ち欠け”
「高崎、今日飲み会だけど…来る?」
講義の始まる5分前。
ぼんやり窓の外を眺めてたあたしに声をかけるのは
お付き合いを始めてまだ一週間の
もう…友達じゃない稲本くん。
あの飲み会の次の日
あたしの返事に、照れ笑いしながら抱きしめてくれた
「ごめん、最近バイト忙しくて…」
「仕方ないか。まあ、俺は2人で会えるから別にいいし。無理すんなよ」
優しくて
あたたかくて
…いつもそばにいてくれる
きっと…
幸せにしてくれる…
『ー…高崎には、もったいないくらいじゃね?…ー』
…本当に、
もったいないくらい…
稲本くんは…
それくらいいい人…
でも…
「でも、最近集まり悪いんだよな~。藤本もあんまり顔出さないし」
もう…忘れるって決めたのに
名前を聞くだけで
揺れ動かされた。
藤本とは…
あの満月の夜から顔をあわせてなかった。
同じ大学でも、学年が違えば
ロビーや食堂に近づかない限り、偶然に出会うことなんてまずなくて
会わないように意識すれば
全く見かけることなんてなかった。
きっと時間がたてば…
こんな気持ち過去にできる…
「高崎、次の休みどっか行こっか」
優しいこの人を好きになれる…
あたしは…
藤本を忘れることでいっぱいだった。