想い綴り







「別れねぇよ」










あたしの腕をグイッと引き寄せて

まるでキスでもするかのように顔を近づける






唇が重なりそうな距離で聞いたのは怒ってるような低い声。




シグレのまっすぐな瞳と、かすかにあたしの鼻に触れる前髪に

一瞬にして言葉を塞がれた










「なに勝手に別れようとしてんの」








目に映るのは、ほんのちょっと呆れ顔。



ため息まじりにあたしの顔をのぞき込むと、


すでにベソかきになってる頬を拭う。










「…ったく。ガキかお前は」


「ガキじゃない…シグレが悪いでしょ…?」


「…ガキ」










呟く声は意地悪なのに

仕方ねぇヤツって見下ろす視線は優しくて

繋がれた大きな手はあたたかくて…




やっぱり…
悔しいけどキュンとなる。









口も態度も悪いけど

仲間でも
そうじゃなくても、困ってる人をほっとけないシグレ



自分のことなんてすぐ後回しにしちゃう人



あたしが好きになったのは



…そんな優しい人











お店を出てすぐ、どうすっかな~って頭を掻いてる後ろ姿


こんな男に惚れちゃったんだから仕方ないって思うしかないのかも










「…もぅいいわよ…どうせ、もう店長に返事しちゃったんでしょ?」








膨れながら、上目遣いで見上げると


あたしの頬を持ち上げてとろけそうな笑顔で優しいキスを落とす









「やっぱ俺にはお前だけだな」











あたしの好きな人
それはちょっと








…ズルい人





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