【短】迷子
サトルの両親は、サトルが小学校にあがる前に離婚している。
《父親が、よその女と一緒になるって言って、俺たちを置いて出て行ったんだってさ》
母親からきちんとした理由を聞かされたのは、中学を卒業してからだった、と言っていた。
「うちの母親も、うまいこと考えたよな。感心するよ」
天井にむけて煙を吐き出す。
「なんだ…。そうだったのか」
複雑な気持ちでジョッキに口をつけた。
「あんな馬鹿げた話も、うちの学校じゃ、かなり広まったほうだよな」
サトルは指に煙草を挟んだまま、またひとつ枝豆をつまんだ。
「やだ。最低ーっ」
サトルのシャツを掴んでいた手で、もうっ、と言いながらサトルを押すミヤビちゃん。
サトルも嬉しそうな顔をして、ミヤビちゃんの頭に手を置いた。
昔の俺たちも、こんな感じだったよな…
目の前の二人を見て、4年前のことを思い出していた。