【短】迷子
「どうしたの?二人とも恐い顔して」
戻ってきたミヤビちゃんが、サトルの顔を覗きこむ。
「ん?なんでもないよ。あ、そういや、昨日の電話んとき、持ってくるって言ってただろ?ほれ」
煙草をくわえると、俺の目の前に右手を差し出し、ヒラヒラとさせる。
「あぁ」
隣の椅子に置いた鞄の中から、二つ折りにした用紙を二枚取り出し、一枚をサトルに渡した。
サトルはそれを広げると、いち、に、さん…と、数えはじめた。
「なぁに?」
ミヤビちゃんはサトルにぴったりくっつくと、用紙を覗きこんだ。
「二次会の出欠のハガキをね、送るんだ。要と早苗ちゃん、6月に結婚するから。俺、幹事なの」
「えーっ!そうだったんですか?おめでとうごさいますっ!すごーい。ジューンブライドだぁ」
目を輝かせるミヤビちゃんに、どうも、と言うと、手元の用紙に視線を落とした。
昼間、黒髪の彼女から受け取った、あの用紙。
大きな瞳を潤ませたチワワが俺を見つめる。