【短】迷子
「すみません。今、お時間よろしいですか?お願いしたいことがあって」
若い女の声だった。
またか…。
いつものことだと思い、顔も見ずに、
「今、時間ないんで」
と答える。
何故かよく、
「アンケートにご協力いただけますか?」
とお願いされる。
友人と一緒に歩いていても必ず俺にくる。
気の弱そうなタイプの人間に見えるのだろうか。
暇な時でもあまり気がのらないというのに、貴重な時間を割いてまで協力するつもりもない。
「お忙しいところすみません。少しでいいんです…」
しつこいな
時間ないって言っただろ
どんな顔をしているのか気になって、お茶を飲みつつチラリと視線を移した。
「………」
ペットボトルを傾け、ごくごくとお茶を飲んでいた俺は、その姿勢のまま動きを止めた。
お茶は望みもしないのに、どんどんと流れ込んでくる。
俺は必死にそれを飲み込んでいた。