【短】迷子
「そうですか…。どこ行っちゃったんだろう…」
残念そうな彼女が、公園を見渡す。
そのたびにサラサラと黒く長い髪が揺れる。
彼女を見ていると、前にもこんなことがあったような、そんな気がした。
確か…。
遠い記憶を手繰りよせる。
《この子、知りませんか?》
確か…
確か、そうだ。
「あ、俺、そろそろ行かないと…」
慌てて荷物を抱えると、俺は急いで公園を出た。
一度も後ろを振り向くことなく、コンビニに逃げ込む。
久しぶりに走ったせいで肺が痛い。
肩で息をしながら視線を上げると、レジにいた店員が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
俺は、何故かその店員に軽く頭を下げると、ガムが陳列されている棚の前に向かった。
心臓はバクバクと激しく音をたてている。
随分と昔の話だ。
もう、10年以上も前の話。