【短】迷子
定時に会社を出た俺は、友人との約束があったため、いきつけの居酒屋へと急いだ。
昼間の、あの黒髪の彼女のことが気になって、商談も思うように進められず、危うく営業成績トップの座を逃してしまうところだった。
サトルに聞いてみよう…
店のドアを開けると、すぐにサトルの姿を見つけることができた。
「よっ。遅かったな」
煙草の煙が立ちこめる中、既に顔を赤らめ上機嫌な様子のサトル。
「こんばんは」
サトルの隣で照れながらも、にっこり微笑む女の子。
「あぁ…。そういうことか…」
俺はネクタイをゆるめ、二人と向き合うかたちで椅子に腰を下ろした。
昨日の晩、突然、
『明日、暇?飲みに行こうぜ』
と電話があった。
ただ単に、新しい彼女を紹介したかっただけか。
「彼女のミヤビちゃん。可愛いだろ?こいつ、小学校から親友やってるカ・ナ・メ。要ね。」
サトルによって紹介された俺たちは、どうも、と軽く頭を下げた。