【短】迷子
「あのさ、おまえ、覚えてない?確か、5年生のときに…」
席に着くなり、10年前の話を聞こうとした俺の言葉を遮り、
「おいおい。まずは乾杯だろ?タケちゃーん!生ふたつね!」
サトルは、ちょうどそばを通りかかった店員に声をかける。
「あ…あぁ」
話を中断させられた俺は、ポリポリと頭をかき、椅子に深く座りなおした。
「そういや、準備は進んでるのか?早苗ちゃんに任せっきりにするなよ」
サトルがフーッと煙草の煙を吐き出し、枝豆をつまむ。
昔から変わらない。
会話の主導権はサトルが握っている。
だから、話を中断させられてもいちいち腹を立てることはしなかった。
今回は違う。
昼間からずっと、サトルに話したくて仕方がなかった。
苛立ちを隠しつつ、
「俺が下手に口出すと、ケンカになるんだ。あいつに任せておいたほうが丸く治まる」
上着を脱ぎ、椅子の背もたれにかけると、シャツの胸ポケットから煙草を取り出した。