【短】迷子
「あれ?禁煙するんじゃなかった?」
灰皿にポンポンと灰を落とすサトル。
「吸いだめ。早苗にバレたらヤバイんだけどね。あーあ、あと何本吸えるんだろ…」
ゆっくりと吐き出した煙でさえ、もったいなく感じてしまう。
「ストレスたまってんねぇ」
くっくっくっ、と笑うサトルの横で、話の内容を理解できないミヤビちゃんは首をかしげる。
「別に。慣れてるから」
おまたせ、とタケちゃんがテーブルに置いたジョッキに手を伸ばした。
「とりあえず、かんぱーいっ!」
サトルの合図で、並々にビールが注がれたジョッキと、ミヤビちゃんの泡の消えてしまったビールが入ったジョッキが音をたてる。
流し込めるだけ流し込んだ俺は、喉から胃袋へと移っていく刺激を楽しみながら、
「サトルと長く付き合っていきたいなら、俺の彼女みたいに、細かいこと言わないほうがいいよ」
と、教えてあげる。
「へぇ~。彼女さん、そんなに細かいこと言うんですか?」
ちびちびとビールを飲みながら、ミヤビちゃんが言う。
「…まぁね」
そう言って、煙草の煙を肺に送りこんだ。