【短】迷子

「あれ?禁煙するんじゃなかった?」

灰皿にポンポンと灰を落とすサトル。

「吸いだめ。早苗にバレたらヤバイんだけどね。あーあ、あと何本吸えるんだろ…」

ゆっくりと吐き出した煙でさえ、もったいなく感じてしまう。


「ストレスたまってんねぇ」

くっくっくっ、と笑うサトルの横で、話の内容を理解できないミヤビちゃんは首をかしげる。

「別に。慣れてるから」

おまたせ、とタケちゃんがテーブルに置いたジョッキに手を伸ばした。

「とりあえず、かんぱーいっ!」

サトルの合図で、並々にビールが注がれたジョッキと、ミヤビちゃんの泡の消えてしまったビールが入ったジョッキが音をたてる。

流し込めるだけ流し込んだ俺は、喉から胃袋へと移っていく刺激を楽しみながら、

「サトルと長く付き合っていきたいなら、俺の彼女みたいに、細かいこと言わないほうがいいよ」

と、教えてあげる。

「へぇ~。彼女さん、そんなに細かいこと言うんですか?」

ちびちびとビールを飲みながら、ミヤビちゃんが言う。

「…まぁね」

そう言って、煙草の煙を肺に送りこんだ。

< 8 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop